『黄泉津比良坂』
あれ程 見るなと頼んだに あれ程 見るなと願うたに 何故 約定を違えられたか あな 憎らしや あな 恨めしや げに醜きこの様を そなたにだけは 見られとうはなかったに 何故 我が想いを汲んでは下されなんだ 女であれば 誰であれ 愛しき君に己が身の 醜く変じた様を知られとうはないものを なぜ 逃げる 我の醜きこの体 灯の下に晒したは そなたであろう! 逃がしはせぬぞ 逃がしはせぬ 我と共に この地の底で いや いや それでは気が晴れぬ この身の如く 心も醜い鬼となって 憎きそなたを 我が爪で 千々に引き裂き 喰ろうてくれよう 許しはせぬ そなた一人を 光の下へ帰そうものか 我が醜きこの様で 根の国に残るというに 何故 そなたのみが 何故 そなたのみが あな 憎らしや あな 恨めしや これより永劫の時を そなたを呪って過ごしてゆくのじゃ そなたが五百の産屋を建てようなら 我は千の命を召そう そなたが千五百の産屋を建てようなら 我は二千の命をこの地へ招く 愛しきが故に 許すまじ そなた 我に 恥見せつ |